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松山地方裁判所 昭和28年(行)7号 判決

原告 真鍋徹

被告 新居浜市公安委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告が昭和二十八年十一月十三日原告に対し、風俗営業取締法第四条の規定によりなした営業許可停止の行政処分はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求原因として、原告は新居浜市中須賀町において被告の許可を得て、パチンコ遊技場を経営中のところ、被告は昭和二十八年十一月十三日原告に対し風俗営業取締法第四条の規定に基き、昭和二十八年十一月十四日より同年十二月二日までの間営業許可停止の行政処分をなした。

而してその理由とするところは、原告は遊技場(パチンコ)を営業中のところ、当局の再三の注意警告にも拘らず、(1)昭和二十八年九月二十八日午後二時五十分頃営業所西出入口帳場において、従業員河野宮子(当十七年)をして遊技客である中川春恵に対し同人が遊技の結果得た景品たる煙草「光」十四個を一個弐拾五円の割で現金と交換せしめ金参百五拾円を提供し、(2)同日午後三時頃同帳場で右従業員をして遊技客田淵勝に対し右同様景品煙草「光」十二個を現金と交換せしめ金参百円を提供し、(3)更に同年十月一日正午頃営業所中央帳場で従業員伊藤絹江(当十七年)をして遊技客山内藤四郎に対し同人が遊技の結果得た鉄玉二百個の返還をうけ景品として現金参百五拾円を提供し、夫々著しく射倖心をそそるような行為をなさしめたからというにある。然しながら、右行政処分は左記理由により著しく妥当を欠き違法である。すなわち、

(1)  行政処分の事由として、原告がその使用人をして、著しく射倖心をそそるような行為をなさしめたと称するも、原告の使用人が遊技客の強い要請により無下に断れず景品である煙草及び鉄玉と現金を交換したことは直に射倖心をそそると断定するのに了解し難い。愛媛県風俗営業取締法施行条例第二十三条第一号の「賭博その他著しく射倖心をそそるような行為」とは少くとも賭博類似行為で著しく射倖心をそそるものでなければならないところ、原告使用人の行為程度では、競輪競馬の場合及び富籤等の認められている現状において彼此対照して右条例第二十三条第一号に該当せぬことは明瞭である。

(2)  而して、右現金との交換行為は注意せられているので原告の遊技客一般に公然と行つているものではなく未成年の女子従業員が客に強いられて、つい不都合したからとて賭博と同様直に射倖心をそそる行為と断じ得ないと思科する。

(3)  右行為は不都合にして將来厳重戒心すべきことではあるが、右の理由により営業停止の事由には当らないから、此種営業に経験なく数月前始めて関係した原告に対しては、将来の戒告程度にとどめるべきである。

(4)  本件処分前取調に当つた係員の説明によれば、本件の如き不都合な行為は新居浜市のみならず他地方でも多く行われていることを聞知しているが、現認したのは原告方が最初であるから特に厳重処分すべきであるとの意見を述べられたが、他戒のため特に厳重処分することは、一面の理由はあるが、公平という観点から見て一般に納得しがたいところであり、特に他地方に例のない厳重処分とすれば、行政上再考を要するものである。

(5)  パチンコ遊技場営業については、世間の一部にとかくの批判を聞くも、大衆国民娯楽として多数民衆がこれが存在を容認し、各種競技、富籤等に対比して、決して不健全な娯楽でなく、少額の消費にて手軽に行える点及びレクリエーシヨン的効果を礼賛する有識者も多い現在においては、これが善導を要し、本件の如き行為は可及的絶滅を希望するも、一面客相手の弱き営業である点をも考慮し、殊に営業者が利益も多くなく多数廃業している現在においては営業停止の処分は、苛酷であり、仮りに本件行政処分が適法であると仮定しても、著しく妥当を欠くものである。

仍つて右行政処分の取消を求めるため本訴に及んだ、と述べた。被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告請求原因事実のうち、原告が新居浜市中須賀町において被告の許可を得て、パチンコ遊技場を経営中のところ、被告が昭和二十八年十一月十三日原告に対し風俗営業取締法第四条の規定に基き、原告主張のような事由により昭和二十八年十一月十四日より同年十二月二日までの間、営業許可停止の行政処分をなしたことは認めるが、その余は争う。すなわち、本件行政処分は、先づ左の理由によつて適法である。

(1)  被告が昭和二十八年十一月十三日なした営業許可停止の行政処分は原告並にその従業者が風俗営業取締法施行条例(昭和二十三年八月二日愛媛県条例第二十八号)第二十三条第一項第一号「賭博その他著しく射倖心をそそるような行為を防止すること」に違反したものと認めたので風俗営業取締法第五条所定の「聴聞」の手続を経たうえ、同法第四条に基きなされた処分であり、

(2)  本件行政処分の原因たる事実は、原告主張の如き三個の具体的事実であつて、いずれも、これが関係者はその事実を承認しており原告もまた右聴聞の際これを認めているものである。

(3)  果して右の事実が前記県条例に所謂「その他著しく射倖心をそそるような行為」に該るか否かというに、元来パチンコ遊技は偶然性相当大であつて、客がその遊技場に立寄るのは、大なり小なり客の側に射倖心があるからである。それ故風俗営業取締法は「客に射倖心をそそる虞のある遊技をさせる営業」として許可を要する外、善良の風俗を害する行為を防止するために、必要な制限を定めることができる規定になつている。この規定に基き遊技の方法について各種の制限がなされており、特に景品の種類は「現金有価証券、統制品、酒の類以外の物品とする」より制限されているのである。原告は右の制限に違反して、その従業者をして玉を現金に又は玉を煙草にかえたものを更に現金に換えさせたものである、かような行為が「著しく射倖心をそそる行為である」ことは疑の余地なきことであつて、被告が前記県条例違反と認めたことは正当である。

(4)  のみならず、原告のパチンコ営業自体が一定の制限付の許可であつて所謂負担付許可、或は附款を附した許可であるから、その制限そのものを実行しない場合は、そのことのみにより当然その許可は取消され或は一定の期間営業の停止を命ぜられる等の処分をうけることになるのである。何となれば、許可せられた営業が社会の秩序を害しないためにはその制限が完全に守られることが必要であるからである。従つて本件の場合、賞品の制限に違反したこと自体により既に許可の取消又は営業の停止がなされることは当然である。

次に本件行政処分は左の理由によつて妥当である。

(1)  原告は昭和二十八年七月七日その肩書住居地において、被告より風俗営業の許可をうけて、「ホームラン」の名をもつてパチンコ遊技場の営業を初めたもので、許可にあたつては、被告は原告に対し、本件の如き行為のなきよう注意をなし、同年八月中に前後四回に亘り、書面をもつて、又は原告の営業所或は新居浜市警察署において、口頭を以て、現金を客に交付するが如きことなきよう警告した。然るに原告は同年八月下旬頃その従業者に対し煙草を定価より五円安く現金と交換してよい旨の指示をなし、その頃より本件違反行為発覚まで引続き客に対して現金を交付していたのである。而して、取締警官は同年九月二十八日営業許可停止事由中の(1)の事実を現認したので、原告に対し厳重警告を発してその後の状況を視察していたところ、同年十月一日また前掲事由中(3)の事実を現認したのである。斯様に原告は再三の警告にも拘らず、違反行為を知悉しながら、反省することなく、敢て警察の風俗取締に反し違反行為を継続した事実は、その情軽くなくその違反行為の内容も犯罪を構成する悪質行為である。

(2)  原告の女子従業者が客に強いられたとの主張は、事実を曲げるものであり、競輪、競馬等とパチンコ営業とを対比しての主張に的をはずれた意見である。

(3)  なお、本件事実に対し何等取締上の処置をとらず看過し営業者の自由に放任する結果の社会に及す悪影響は甚大なものがあり、ために善良の風俗を害し社会悪が各方面にあらわれてくることは、言うを俟たないところであるし、本件の場合再三注意をし警告をするも、なお違反行為を改めない原告に対しては、行政処分による許可の取消乃至停止は必要であり、且妥当である。

従つて、以上の理由によつて、原告の請求は理由がない。と述べた。

三、理  由

職権をもつて按ずるに、原告は本訴において、被告が昭和二十八年十一月十三日風俗営業取締法第四条に基き、原告に対しなした昭和二十八年十一月十四日より同年十二月二日までの営業停止の処分を違法であるとして、これが取消を求めるものであるところ、凡そこのような処分の取消請求を現にその処分の効果が継続しており、従つてその処分の取消により右処分がなされたために失われた権利を回復し得る間に限り許されるものであると解するのを相当とする。これを本件について見るのに、原告の営業は昭和二十八年十二月二日まで停止されたのであるから、右日時経過後である現在においては、右処分の執行は終了し、原告の営業につき停止処分の効果は及ぶことなく、原告は現在右処分をうける以前の権利状態と同一の権利状態にあるものというべきであるから、本訴において右処分の取消を求める必要のない状態にあると解せられる。従つて、原告は右処分の取消を求める法律上利益を有しないから、本訴請求は、失当である。仍つて原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 伊東甲子一 橘盛行 荻田健治郎)

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